シンガポールに来た観光客の多くが足を運ぶ富の泉。正式名称はFountain of Wealth(ファウンテン・オブ・ウェルス)。
サンテックシティというショッピングモールの中心部に位置する巨大な噴水だ。
「パワースポット」「金運アップ」という言葉とセットで紹介されることが多く、日本でも名探偵コナンの映画に登場したことで認知度が上がったスポットでもある。
在住者として正直に言うと、初めて訪れたときの印象は「思ったよりショッピングモールの中にあるな」だった。
観光ガイドで見る写真のイメージとは違い、周囲をビルとレストランに囲まれた空間に噴水がある。
しかし知れば知るほど、この場所に込められた設計の意図と文化的な背景が面白くなってくる。
富の泉とはどんな場所か
富の泉は1995年に建設され、1998年にギネス世界記録で世界最大の噴水として認定された。
巨大なブロンズ製のリングが傾いた柱に支えられ、その下に水が噴き上がる構造で、高さは約10メートルに達する。
このブロンズリングのデザインはヒンドゥー教のマンダラ(曼荼羅)をモチーフにしており、人種や宗教を超えた調和と統一を象徴しているとされる。
シンガポールが中華系・マレー系・インド系など多民族で構成される国であることを考えると、特定の宗教や文化に偏らないデザインを選んだことに、この国らしい配慮が感じられる。
風水に基づいた設計という面白さ
富の泉が単なる噴水と異なるのは、建物全体が風水の思想に基づいて設計されているという点です。
サンテックシティは5棟のオフィスタワーで構成されており、これが「左手のひらを広げた形」を表している。
5本の指にあたる5棟のタワー、その手のひらの中心に富の泉が置かれている。手のひらで富を受け止めるという設計だ。
中国文化では「水は富の象徴」とされており、水が中央へ流れ込む噴水の設計は「富を留める」意味を持つとされている。
シンガポールは中華系住民が人口の約7割を占める国で、風水の考え方が都市設計や建築に実際に取り入れられているケースが多い。富の泉はその代表例として知られている。
在住者として街を歩いていると、こうした風水の影響があちこちに見えてくる。マーライオンが東向きに配置されているのも縁起を考慮したものだし、シンガポール・フライヤー(観覧車)は開業当初の回転方向が風水的に問題があるとして、数千万円をかけて回転方向を変更したエピソードまである。
シンガポールという国が経済合理性と風水的な縁起の両方を真剣に考えてきたことが伝わってくる。
「水に触れて3周」の儀式
富の泉の最大の魅力は、実際に噴水の中に入って水に触れられることだ。1日に数回、決められた時間帯に噴水内部への入場が開放される。
右手を噴水の水に浸しながら、時計回りに3周すると願いが叶うといわれている。
実際にやってみると、思いのほか楽しい体験だ。観光客も地元の人も、みんな少し照れながら真剣に周回している。
国籍も年齢も関係なく、同じ空間で同じ儀式をしているその光景が、シンガポールという多文化国家らしさを凝縮しているように感じる。
入場可能な時間帯は午前・午後・夕方の各回に分かれており、週末は行列ができることもある。
平日の午前中が比較的空いていておすすめです。なお噴水自体は24時間眺めることができ、夜間はライトアップされてレーザーショーも行われる。
在住者のリアルな感想
梶原吉広個人として正直に言うと、富の泉は「これだけを目当てに遠くから来る」場所ではない気もする。
噴水に触れて3周する体験自体は5〜10分で終わってしまうからである。
しかし周囲にはサンテックシティのレストランやホーカーセンターが充実しており、食事と組み合わせて訪れるなら十分に価値がある。
むしろ面白いのは、この場所を「風水都市シンガポール」を理解するための入口として捉えることです。
富の泉を見た後に街を歩くと、建物の配置や形状、水の使い方に込められた意図が少し見えてくるようになる。
シンガポールが急速な経済発展を遂げてきた背景に、こうした文化的な信念と実用主義の組み合わせがあったことを感じさせてくれる場所なのだ。
シンガポールの風水都市としての側面
シンガポールに住んでいると、この国が「縁起」を非常に大切にしていることに気づく。(もちろん日本でもあるけれど)
高層ビルの設計に風水師が関与することは珍しくなく、建物の向きや水の配置が細かく検討される。
富の泉はその象徴的な存在だが、同じような発想は街のあちこちに潜んでいる。
観光スポットとしてだけでなく、シンガポールという国の文化的な価値観を垣間見る場所として、富の泉は一度訪れる価値がある。
金運が上がるかどうかは保証できないが、少なくとも「この国はこういう考え方を大切にしている」という発見は、旅の記憶として残るはずです。


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